雨が、降っている。
天の水が、山に降り注ぐ。濃い緑色の葉を濡らす。重なりあう葉をつたい、水はまた空中に身を投げる。
その水は、少年の頬を濡らした。
少年は倒れていた。泥と腐葉にまみれ、雨水に濡れても起き上がらない。
少年の冷たい体に、よりそうモノがいた。
不思議なケモノだった。蛇に似た大きさの細長い体と、トカゲのような爪のある手足、全身は白い毛におおわれ、頭頂から背筋にかけての毛は青い。
ケモノは少年の首筋のあたりに丸まっていた。雨に濡れ、腐葉が毛のあいだにはさまっている。
雨がやんだ。
むらのある雲がちぎれ、あたりがわずかに明るくなる。
「う……」
少年がよろよろと起き上がる。彼の首から、白と青のケモノが落ちた。
「お師匠さま……」
少年はフラフラと歩き出した。
少年のうしろを、不思議なケモノがヨタヨタと追いかける。
少年は立ち止まった。
視界が開けた。
「あ……」
朝日が世界を照らす。すべてを始まりに戻すような、あかときの色で。
少年はケモノに手を差し出した。
ケモノは一瞬ためらい、そして少年の手に乗った。
少年はケモノを抱く。濡れた手で、ケモノの濡れた頭をなでる。
「一緒に……行くか?」
少年は尋ねた。
ケモノはピッと顔を向ける。青い目をぱちくりさせる。
「にぃ……」
空のような目をゆっくり閉じて、ケモノは少年に顔をすりよせた。
それが彼らの出会いだった。
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