第一幕 玉髄と青玉  序


 雨が、降っている。
 天の水が、山に降り注ぐ。濃い緑色の葉を濡らす。重なりあう葉をつたい、水はまた空中に身を投げる。
 その水は、少年の頬を濡らした。
 少年は倒れていた。泥と腐葉にまみれ、雨水に濡れても起き上がらない。
 少年の冷たい体に、よりそうモノがいた。
 不思議なケモノだった。蛇に似た大きさの細長い体と、トカゲのような爪のある手足、全身は白い毛におおわれ、頭頂から背筋にかけての毛は青い。
 ケモノは少年の首筋のあたりに丸まっていた。雨に濡れ、腐葉が毛のあいだにはさまっている。
 雨がやんだ。
 むらのある雲がちぎれ、あたりがわずかに明るくなる。
「う……」
 少年がよろよろと起き上がる。彼の首から、白と青のケモノが落ちた。
「お師匠さま……」
 少年はフラフラと歩き出した。
 少年のうしろを、不思議なケモノがヨタヨタと追いかける。
 少年は立ち止まった。
 視界が開けた。
「あ……」
 朝日が世界を照らす。すべてを始まりに戻すような、あかときの色で。
 少年はケモノに手を差し出した。
 ケモノは一瞬ためらい、そして少年の手に乗った。
 少年はケモノを抱く。濡れた手で、ケモノの濡れた頭をなでる。
「一緒に……行くか?」
 少年は尋ねた。
 ケモノはピッと顔を向ける。青い目をぱちくりさせる。
「にぃ……」
 空のような目をゆっくり閉じて、ケモノは少年に顔をすりよせた。
 それが彼らの出会いだった。


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初出:2012年壬辰10月08日