鬼仏尊会 〜付喪神のオレと神虫のキミ〜
第五章 六 二人の絆



 一磨は目を開いた。
「……生きてる」
 見上げた空に、ビルが混じる視界。
 腕が二本しかないのを感じる。
「もとに……戻った、のか」
 二本の腕をかざす。
 急速に感覚が、現実感が戻ってくる。アスファルトに横たわる自分がわかる。飛び散った瓦礫の中で、眠っていたのか。胸元をさぐる。呪印の手触りがない。
(朱顎王を倒した)
 だから呪いも消えたのだ。
「ら……い」
 名を呼ぶ。
「一磨さん」
 答えがあった。
(ああ、俺は生きているんだ)
 そして――彼女も生きているんだ。
 一磨は起き上がった。目の前に、らいがいた。
「らい……らい!」
 一磨はらいを抱きしめた。強く強く、抱きしめた。
「一磨さん……?」
「君が生きてて、よかった」
 はっきりと言った。それ以上、何も言えなかった。
 らいの頬が赤く染まる。細い腕が、おずおずと一磨の背に回される。
「一磨さんが、生きてて、よかった」
 小さな手にきゅっと力が入る。
「あ……」
 一磨の肩が震えだす。
「あ……ああ……」
 泣いた。らいを抱きしめたまま、一磨は泣いた。
 らいの手にぎゅっと力が入る。あたたかい手だった。
「ごめん……ごめん、らい……」
 君を傷つけた。寂しい思いをさせた。
 ごめん。ごめんね。ただその思いがあふれた。
「いいえ」
 らいは一磨から体を離す。顔を静かに近づける。
 ちゅ。
 そっと一磨の頬にキスをして――。
「一磨さん」
 ピシッ!
「っ!?」
 らいのデコピンが、一磨の額を打った。
「気にしなくていいんですよ」
 ――ばか。
 優しい。世界一優しい一打だった。
「まいったな……」
 一磨は笑った。泣きながら笑った。
 二人は笑った。額を合わせ、泣きながら笑った。
 喧噪が遠く聞こえる。サイレンの音、警察の声、人の騒ぐ音。遠く遠く聞こえる。
 二人を案じる人々が駆けよってくる。
 まるで映画のラストシーン。やけにゆっくり時間が過ぎていく。
 二人は支えあって立ち上がる。しっかりと手を握り合って。

 戦いは終わった。



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初出:2014年甲午11月14日