鬼仏尊会 〜付喪神のオレと神虫のキミ〜
第五章 三 胎動



 冷たい。
(俺はどこにいる?)
 たしか球の中に閉じこめられた。球の中には水が満ち、息を失ったはずだ。
(水の中か。死ぬのか。いや、鬼に成るのか)
 あたりの様子はわからない。体も動かないのに、頭の中だけが冴えてくる。
(…………?)
 声がどこからか響いてくる。
 ―― 一磨。
 ―― 一磨。
(誰だ? 俺を呼ぶのは誰だ?)
 ――わたくしはあなたの半分。
(半分?)
 ――でもあなたではない者。
(かあ、さん?)
 ――わたくしはずっと、あなたのそばにいる。
 ――呼んで。わたくしの名を。あなたの力を。
(俺は鬼に成る)
 ――鬼性は誰にでもある。
(俺は……)
 ―― 一切衆生悉有仏性。
(母さん?)
 ――いづれも仏性具せる身を。
 ――隔つるのみこそ悲しけれ。
(俺はどうなる?)
 ――鬼性は誰にでもある。
 ――仏性は誰にでもある。
(俺はどうなる? 鬼になるのか?)
 ――あなたの意志で。
(俺の意志で?)
 ――呼んで。名前を。
(わかった)
 呼ぶよ。俺の意志で。俺の望みを。
(オン)
 おお、帰命したてまつる。
(サラスバテイエイ)
 大弁才天女よ。
(ソワカ!)
 我が願い、成就あれ!
 一磨が胎動した。



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初出:2014年甲午09月19日