冷たい。
(俺はどこにいる?)
たしか球の中に閉じこめられた。球の中には水が満ち、息を失ったはずだ。
(水の中か。死ぬのか。いや、鬼に成るのか)
あたりの様子はわからない。体も動かないのに、頭の中だけが冴えてくる。
(…………?)
声がどこからか響いてくる。
―― 一磨。
―― 一磨。
(誰だ? 俺を呼ぶのは誰だ?)
――わたくしはあなたの半分。
(半分?)
――でもあなたではない者。
(かあ、さん?)
――わたくしはずっと、あなたのそばにいる。
――呼んで。わたくしの名を。あなたの力を。
(俺は鬼に成る)
――鬼性は誰にでもある。
(俺は……)
―― 一切衆生悉有仏性。
(母さん?)
――いづれも仏性具せる身を。
――隔つるのみこそ悲しけれ。
(俺はどうなる?)
――鬼性は誰にでもある。
――仏性は誰にでもある。
(俺はどうなる? 鬼になるのか?)
――あなたの意志で。
(俺の意志で?)
――呼んで。名前を。
(わかった)
呼ぶよ。俺の意志で。俺の望みを。
(オン)
おお、帰命したてまつる。
(サラスバテイエイ)
大弁才天女よ。
(ソワカ!)
我が願い、成就あれ!
一磨が胎動した。
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