「なあ」
問題児は尋ねる。
「アンタ、死んだら誰か泣いてくれんのか?」
放課後の教室。
カーテンが舞い上がる。
「どして?」
優等生の委員長は尋ね返す。
「すまし顔でさ。制服もちゃんと着て。化粧もしないで」
問題児は机に腰かける。短いスカートから、下着がちらつきそうだ。
「アンタつまんない人間じゃん」
「違うわ」
優等生は視線を合わせなかった。
「自分をよく見せる方法を知ってるだけ」
すっと顔を上げる。
また風が吹く。風はカーテンの波になって、見えないはずの姿をさらす。
「シャツをスカートに入れるだけで、ウケはよくなるのよ」
「……アンタ、けっこう腹黒いんだな」
「あなた、けっこう純真なのね」
「なんだよ、それ!」
問題児はカッとなった。頬が赤い。
最初は、優等生をからかってやるつもりだった。気づけば、優等生が自分をジッと見つめている。落ち着いた瞳は、純真な問題児を底まで見通す。
「アンタ、見せかけだけじゃん!」
「何が悪いの?」
「いや、だから」
「自分をさらけ出すのが正しいの?」
「ん……」
「わたしは、これがわたし」
きっちり結ばれたボウタイを手で押さえる。毎日きちんと結んでいるんだろう。
彼女は、彼女なりに選んだ自分をいつも見せている。だから問題児の思う正しさは、彼女も持っている。優等生はそう言っていた。
「最初の質問に答えてなかったわね」
――死んだら、誰が泣くの?
「あなたが泣いてくれればいいんじゃない?」
さらっと言った。
「プ……アッハハハ!」
問題児は笑った。
「じゃ、さ。アタシが死んだら、アンタが泣いてくれんの?」
笑いすぎて涙さえ浮かべながら、問題児は尋ねる。
「ううん」
優等生は首を横に振る。
「笑ってあげる」
問題児はポカンと口を開けた。
「……なんでだよ?」
「あなたにぴったりだと思うから」
彼女がほほえむそのときは。嘲笑でもない。喜びでもない。
慈愛に満ちた聖母のような顔で、彼女はほほえむのだろう。
「ああ――」
それが彼女らしい答えだ。問題児には理解できた。
「頼む、な」
心から望んだ。
風がやんだ。放課後の教室だった。
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