あの青い海に溶けていきたい。
青く、深く、底のない海に。
海という幻想は、人をひきつけてやまない。あの青さは人の奥底を呼び覚ます。ゆえに、ある人は海に憧憬を、ある人は海に恐怖を覚える。
無限の水。
無限の青。
無限のぬくもりと、無限の光と。
無限のつめたさと、無限の闇と。
四つすべてそなえた存在は、青く青く広がっている。
「そこを泳ぐ者よ、わたしはあなたがうらやましい」
青い水とともに生きるものもまた、人をひきつけてやまない。
小さなガラスのうちに、青い水を再現しようとしてしまうほどに。てのひらにおさまる青い水に、無限のぬくもりを閉じこめ、無限のつめたさを閉じこめる。
「泳ぐ者よ、うつくしい」
「泳ぐ者よ、ずっとそばにいて」
海という幻想に近づくために、人はガラスをそばに置く。
ああ、でも。
あの青い海に溶けていきたい。
青く、深く、底のない海に。
ぬくもりにただよい、つめたさにこごえ。
光に心うごかし、闇に心をこらす。
海は人のそとにある。海は人のそばにある。海は人のうちにある。
「海よ」
「わが愛しき水よ」
人は海を望む。
青く、深く、底のない海に。
「泳ぐ者よ、ずっとそばにいて」
ガラスのうちに海を閉じこめ。
その冷たさに、心あたためる。
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