怪談と言うのかは、わかりませんが。
わたしの地元に、ちょっと不思議なスポットがありますよ。
「浮島」と言いましてね。島が浮いてるんです、水の上に。
その島は、熱帯と亜熱帯の植物が入り混じっているとかで、天然記念物にもなってますよ。すごいでしょ。遊歩道がわりの橋を、島の周りに造ったりして。誰でも入れます。入り口の小屋には、そこで生えてる花の写真とか、飾ってありますよ。
そんでね、わかると思いますけど、そこ、草がやたら多いんです。草だけじゃない、杉の木とかも生えていますよ。浮き島なのに。まさに、森が水の上に浮かんでる感じですよ。
そんだけ草が多ければ、落ち葉の量だって結構ありますよ。
でもね、一箇所だけ、綺麗な場所があるんです。「蛇の穴」と言われるところです。
その島にはね、昔、大蛇が棲んでいたそうですよ。それで、その巣穴と言われる穴があるんです。それが「蛇の穴」。穴、というより、島の真ん中に泥沼が丸く開いてる、っていうだけなんですけどね。
あの穴だけ、いつも綺麗なんですよ。ええ、いつも。落ち葉の欠片もありません。おかしいですよね、まわりは植物だらけなのに。
なにか、あるんでしょう。
いや。
いるんでしょうね。
でも、誰も、気にしてないんですよ。あの穴に、なにがいるかなんて。
その島の管理人だって、大蛇の伝説についてはなぁんにもも知らなかったくらいですからね。
忘れ去られつつあるんですよ。がっかりしますよ。
まぁ、伝説は、しょせん伝説ですからね。作り話っていわれちゃえば終わりですから。
綺麗な花が四季折々咲けば、忘れ去られてしまう。
みんなもう誰も、そこになにかいるなんて、考えていないんですよ。
あの穴だけ、綺麗なんですけどね。
春でも、夏でも、いつでも。
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