名曰卑弥呼
名曰卑弥呼、事鬼道能惑衆。年巳長大、無夫婿、有男弟、佐治国。

彼女には弟がいた。弟は剣を握り、その力を以って姉を護り支えた。

鬼道にて神霊の世界を抑える姉。
武力により人間の世界を抑える弟。

このふたりによりて、世は治まっていた。

しかし、姉はこの弟を心のどこかで怖れていた。もし彼に叛意あらば、その剣は容易く彼女の胸を貫くだろう。

そして弟もまた、同じように姉を怖れていた。
もし彼女の逆鱗に触れなば、彼の魂は永劫の黄泉監獄に閉じ込められるだろう。

はらからであるのに、それ以上であるのに、我らは互いを針で支えあっているようなものだ。危うい。あやうい。

けれども、それでも。
我らは我らを愛している。

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